綴音

愛しそうに手を伸ばして頬を触れられる夢を見た。どうしようもなく幸せな夢。優しい笑顔。
夢だから良いのであって、恥ずかしくて現実ではされたいとは思えないのだけれど。必要ないと思われないのであれば、邪魔にならないのであれば、殺すことはしないでおきたい。

小指がとても冷たかったこと。
手が思っていたより小さかったこと。
爪の短い指先を自嘲していたこと。
傷もあるその手を愛しいと思ったこと。
少し傷つけてしまったかな。
約束はしないけど、笑顔でいてくれるようにいたい。

夢の中で囁いたことは私のことで、非実在をたたえるようなものだったから言ってあげない。

嘘をついたことに腹を立てるのではなくて、言わなかったことに腹を立てる言葉はそれなりに。憎まれ口を叩くのはご愛嬌で思いやり。真実かどうかなんてことはどうだっていいのかもしれないね。

低迷する船に波が追い打ちをかけるように凪ぐのはそれがそうであるべきだから。夢の中で真実を告げたって現では何も知り得ないのだ。

笑っていてくれるならそれでいいよ。